第2回 砂場でケーキを作る | |||||
保育実践事例 10 「ケーキを作ろうよ」-幼児は遊びの中でどのように学ぶか- | |||||
今日は私の誕生日! | |||||
10月下旬のある朝、私が玄関で母の会の会長さんと会議の打ち合せをしている | |||||
と、3歳児の女児Y子とA子がやってきて、「遊びを一緒にしよう」 と誘ってきました。 | |||||
Y子はいつもにこにこしている明るい幼児ですが、今回初めて自分から進んで遊び | |||||
を一緒にするように依頼してきました。 | |||||
Y子とA子は「先生、ケーキ作ろう」 と言って、私を砂場に連れていきました。 | |||||
砂場に行ってみると、すでに3歳児が7~8名ぐらい、しかも好きな友達2~3人のグループに分 | |||||
かれ、砂を掘って山のように高くしていたり、コップに砂を入れ、プリンに見立てたものを何個も作っ | |||||
ていました。それぞれが自分のイメージしたものを実現することに黙々と取り組んでいました。 | |||||
Y子とA子と私は、砂場に腰を降ろして、早速ケーキ作りに取りかかりました。Y子はにこにこしな | |||||
がら言いました。 | |||||
「私、今日は誕生日なの。4歳になるの」 | |||||
そこで、私は誕生日の歌を歌ってあげました。Y子は嬉しそうでした。 | |||||
どうしてケーキができないの? 黒砂じゃないと、だめだよ。 | |||||
Y子はコップに砂を一杯入れて、コップをひっくり返しました。すると、砂はコップの形にならず、 | |||||
さらさらと崩れてしまいました。Y子は 「どうしてケーキができないの?」 と不思議そうでした。 | |||||
すると、砂でホットケーキを作っていた、同じクラスの I 男が 「黒砂じゃないと、だめだよ」 と助言 | |||||
してくれました。 | |||||
続いて、別のグループでプリン作りをして遊んでいた女児M子が、新たな助言をしてくれました。 | |||||
「黒砂は、白砂に水をかけるの」 | |||||
私は友達と一緒に水を汲んできて、白砂に水をかけました。 | |||||
黒砂の入ったカップをひっくり返して… できた! | |||||
Y子は水を含んだ黒砂をコップに一杯入れて、コップを再びひっくり返しました。そして、黒砂 | |||||
の入ったコップをゆっくり、慎重に上の方に持ち上げていきました。すると、砂は崩れることなく、 | |||||
コップそのままの形が出来上がりました。バースデーケーキのスポンジが出来上がりました。 | |||||
スポンジの角が少し壊れているところが妙に真実味を帯びていました。 | |||||
素敵なバースデーケーキのできあがり! |
|||||
私は庭のアメジスト・セージの紫の小花と黄色の小花を摘んできて、Y子に上げました。 | |||||
Y子はその花でバースデーケーキの飾りつけに取りかかりました。A子も花を飾りつけました。 | |||||
紫と黄色の花で飾り付けられた素敵なケーキが出来上がりました。 | |||||
昨日、Y子は家庭で誕生日を祝ってもらったことがとてもうれしかったにちがいありません。 | |||||
担任にもその事実をうれしそうに伝えたとのことでした。 | |||||
自分のために何かしてもらえることは、しかも特別のことは、誰にとってもうれしいことです。 | |||||
Y子も家庭での誕生日会は忘れられない出来事だったに違いありません。だからこそ、Y子は | |||||
現実の出来事を遊びという虚構の世界で再び体現したかったのでしょう。 | |||||
私を積極的に誘ってきたことがそのことを物語っています。 | |||||
子どもたちの遊びに必要な援助とは |
|||||
この事例からも、学びは楽しいものであり、明日への希望でなければならないと思いました。 | |||||
幼児教育は教師との信頼関係の中で、遊びを通して生きることが明日への希望に繫がるもの | |||||
でなければならないと考えています。 | |||||
また、幼児が教師や友達と共に遊ぶ中で様々な情報や知識を取捨選択し、それらを自分の | |||||
生活に生かしていくことがもう一つの学びです。 | |||||
しかも、学ぶ主体は幼児です。教師はすぐに答えを示したり、与えたりせずに、状況に応じ | |||||
て幼児が主体的に生きられるように適切な環境を構成することがとても大切です。 | |||||
この事例のように、教師は砂でプリンやケーキを作る方法を敢えて伝えず、その幼児の心情 | |||||
や意欲に応じて援助したり、又は同年齢の仲間の援助を取り入れました。それらは、幼児一人 | |||||
ひとりの育ちの理解と同時に、人の発達は周囲との相互関係によって行われるという関係論的 | |||||
発達観や状況論的発達観を考慮したからでした。 | |||||
友達とのかかわりで得た学びを次につなげていく |
|||||
入園してから既に半年が経ち、好きな友達を見つけ、共に遊ぶことを楽しむ段階では、教師 | |||||
がその方法を教えること以上に友達や仲間たちとのかかわりの意義の方が大きいことが理解 | |||||
できます。 | |||||
Y子にとって、このかかわりで得た学びは 「なるほどと分かって、何度も繰り返す」 という | |||||
「学びの過程」へと繫がるのではないでしょうか。 | |||||
素敵なケーキが出来上がってY子はどんなに嬉しかったことでしょう。Y子の周りに | |||||
いた友達の援助もよかったですね。日々の活動を通して子どもたちの間に信頼感が | |||||
高まっているのでしょう。幼稚園生活に慣れてきた頃の年少児のほわっとした温かさ | |||||
に触れた気がします。 | |||||